日本ケースセンター

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ケースメソッド教育
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ケースメソッド教育とはどのようなものですか?
ケースメソッド教育とは、「討議用ケース」を用いて行う討議型授業をつなげてカリキュラムを構成していく教育形態の総称です。私たちにとって馴染み深い講義型の授業を基点して、そこに変化をつけるためにケースを使うというレベルを超えて、ケースをもとにした討議型授業を何度も繰り返し行うケースメソッド教育は、ケースを用いた学習の究極の姿とも言えるかもしれません。その教育目的は言うまでもなく「実践能力」の育成であり、ケースメソッド教育のもとでは講義型の授業はあまり行われません。
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日本でケースメソッド教育を行っているのは、経営大学院(ビジネススクール)、民間のビジネススクールなどです。しかし、すべての科目をケースメソッドで教えている教育機関は数少なく、一部の科目や、ある科目の一部の授業コマ数をケースメソッドで教えているという教育機関が大半です。このどこまでをケースメソッド教育というべきかは明確ではありませんが、相当量の授業コマ数をケースメソッドで教えてはじめて、その教育機関は「ケースメソッド教育」と行っていると言えるのでしょう。

ケースメソッドで討議を通して学ぶ方法以外にも、講師による講義によって学ぶ方法もありますので、ケースメソッド教育を成立させるためには、学ぶ側と教える側の双方が討議型の授業で学ぶことに価値を置くことへの合意が必要です。その意味でも、慣れ親しんだ講義型授業に逆戻りしないで、ケースメソッドによる討議型授業を一貫して持続できる教育機関は、組織を挙げてケースメソッド教育の維持と向上に努めています。

もし仮に、本サイトへの訪問者で討議型授業に参加した経験のない方が、はじめてケースメソッドによる討議型授業の場に参加したとしたら、おそらく少なからざる方が講義型授業を恋しく思うことでしょう。もしかすると、何も学べていないような気がするかもしれません。同じような気持ちに教える側も陥りがちです。講師自身がケースメソッド教育で育っていない場合は、何も教えていないような不安感に襲われるかもしれません。

しかし、学習の入り口に横たわっている不安感に飲み込まれることなく、その先に広がっている教育効果を見据えている講師と学習者で構成する教室は、討議による叡智を生む可能性に満ちています。ケースメソッド教育が、経営実務家教育のためのもっとも有効な手法のひとつとして、1930年代の発祥から今日まで、維持され発展してきた理由はここにあるとだと思われます。
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このような学習を行うことによってどのような能力が身につきますか?
ケースメソッド教育の真骨頂は、ケースをもとにした分析や意思決定訓練を相当量繰り返して行うことで、難題に果敢に立ち向かう能力と姿勢を身につけたマネージャーを育成できるところにあります。これは実践能力という言葉の意味を超えて、相互に尊重しながら協働してソリューションを導くことのできるスキル、専門性の高いハイタレントたちを束ねることのできるスキル、倫理観の確かさや豊かな人間性をも含みます。
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ケースを使った学習によって伸びる能力については前述していますので、ここでは「ケースメソッドで教えるビジネススクールで学ぶ」ということが具体的にどのようなことになるかを紹介することで、そこで身につく能力像に迫ります。

ビジネススクールの学生としての生活は、知力、体力、精神力のすべての面において、非常に厳しいものになります。毎日2〜3ケースを学ぶとすると、グループ討議とクラス討議で約6〜9時間、そして次の日の予習のために約6〜9時間、それに学校と家の移動や食事、入浴、最低限の睡眠の時間をとりながら、課程修了までの1年〜1年半程度の期間を過ごします。言うまでもなく、この生活の中心にあるのは、グループとクラスのふたつのレベルで行うケース討議なので、予習をおろそかにすると一日のうちの6〜9時間の意味と価値がほとんどなくなってしまいます。もっと現実的なことを言えば成績がつきません。

前の問いへの答えのところでも、ケースで学ぶことで身につくのは「実践能力」であり、実践能力の中身は、分析力、洞察力、情報統合力、計画立案力、概念構成力、戦略構築力、意思決定力などに分解できると述べました。これだけのことをこなす毎日を1年以上送れば、このような力は、個人差があるとは言え、かなりのレベルで向上します。それと同時に、こうした毎日の乗り越えたことで得ることのできる、不屈の精神力、人間としての幅や深み、相互信頼を確かに伴った豊かな人間関係などが、そこに集った学習者の身体に刻み込まれていきます。

ハーバードビジネススクールにおけるケースメソッド教育推進の中心的人物のひとりであったマルコルム・P・マクネアは“tough mindedness”という言葉をつかってケースメソッド教育の目的を示唆しています。経営教育におけるケースメソッドは、経営者としての全人格的な能力を涵養します。
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どのようなケースが使われますか?
ケースメソッドで行われる授業の教材には、「討議用ケース」が使用されます。「理論適用ケース」は理論フレームなどの使い勝手の確認に、また「分析ケース」は深い洞察を基にして行う高度な分析訓練に、「意思決定ケース」は何かひとつのアクションを選ばなければならない状況下での意思決定力を高める訓練に用いられます。
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ケースメソッド授業はそもそも、実務を遂行していくための知恵を、討議を通して「作っていく」「気づいていく」「自分のものにしていく」ための学習の場ですので、講師が教えたいものをそのまま教えるという授業スタイルをとりません。

つまり、ケースメソッド授業において講師が教えたいと考えているものはケースの記述の中にあるのではなく、そのケースを使って学習者同士が議論したときにはじめて姿を表すことになります。このような授業を行うためには、原則として「討議用ケース」が使用されます。

初歩的な内容を教えるための授業では「理論適用ケース」が使われますが、ビジネススクールで行われる授業の大半では、「分析ケース」や「意思決定ケース」が使われます。ここで用いられるケースの多くは、読後感が悪く、混沌とした気分に読者をさせるか、読者をしてそこに記述された問題状況を「放ってはおけない」という気持ちにさせます。この種のケースに描かれている問題状況は複雑に入り組んでおり、見方を変えれば解決方法も変わる上に、どの解決方法を選ぶにしても非常に悩ましい問題を避けられないというものです。このように、多面的で高度な分析、あるいは意思決定を読者に求めてくるケースばかりが教材として使用されます。

ケースメソッド教育では「事例研究ケース」が主たる教材として使用されることはほとんどありませんが、討議を豊かにするための補助教材として、このタイプのケースが「討議用ケース」に併用されることがあります。
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どのような学習者が集まっていますか?
ケースメソッド授業の教室には、実践能力の向上を願う学習者たちが集まります。彼(女)らは、講師の講義によって知識を得るのではなく、実務家としての実践能力を身につけるための訓練を受けに来ているという自覚をもって教室に来ます。またもちろん、その日の授業で使われるケースについては十分な予習を済ませて、自分が発言することを通して学ぶべく授業に臨みます。
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ケースメソッドで学ぶ学習者たちの様子を、ここでもビジネススクール(経営大学院)を前提にして紹介します。

教育機関が個別に定めている参加資格にもよりますが、基本的には実務経験のある学習者が中心です。学習者の実務経験量や従事していた業種にばらつきがありますが、それはまったく問題ではなく、むしろ討議の多様性を維持するためには喜ばしいことであると考えられています。与えられたケースに対しては、学習者は自分の経験を頼りにケースに描かれた状況を理解し、そこに何らかの解を出していくことになりますので、集まった学習者の多様な実務経験の恩恵に、学習者が相互にあずかることのできる学習方法であると言えます。

ケースメソッドでとことん学ぼうという学習者は、相当に厳しい学習に耐え、それを乗り越えることで自分が高まることを期待している人たちばかりです。学ぶ者にとってこのような場に身をことは「自己投資」に他ならず、その先には当然「投資回収」を見据えています。多くのビジネススクールでは授業料も決して安いものではありませんし、全日制のビジネススクールに通うためには、勤務先から給与を得ながら派遣してもらわない限り、仕事を中断して収入を断って学業に没頭することになりますので、学習者は真剣そのものです。

日本でもMBAの転職市場が形成されつつあり、学習者たちは課程修了後に年収アップを伴う転職をすることで、キャリアアップを目指しています。ケースメソッドで学ぶクラスとはそのような人たちの集まりなので、おなじ「きょうそう」という音が「協創」と「競争」のふたつに何度も切り替わる場になります。その意味では、討議中も無責任な発言をすると、講師よりも学習者から非難されることになります。

こうした真剣勝負の日々を過ごすことで“tough mindedness”を得るべく、学習者たちは切磋琢磨しています。
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どのような先生が教えるのですか?
ビジネススクール(経営大学院)であればその学校の教員が教えますし、民間のケースメソッドセミナースクールであれば、そのスクールが認めた講師が教えます。多くの場合、経営学領域における上級学位や研究業績と、実務における高い実績のいずれか、あるいは両方を兼ね備えた人が教鞭を取っています。
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ケースメソッドで経営を教えるためには、講師がどのような条件をクリアしているべきか、ここで少し考えてみます。

まず、ケースを使って経営学を教えるならば、経営学に精通していることが求められます。しかし、ケースを使って実践能力を高めるための教育を行うならば、経営における実践能力とはどのようなものかが見通せていなければなりません。

実務に精通している講師の方が、実践能力を高める教育には有利だという考えもありますが、その講師に実務経験で得たポイントや教訓をたくさん語ってもらえば、学習者の実践能力が高まるかと言えば、決してそうではありません。

同じことは学者にも言えます。経営に関する先端的な研究に従事している学者が、その研究成果を実践教育の場で教えるということは、それ自体は経営教育に有効ですが、学習者の知識を拡大させるだけならば、課程修了後に学習者は経営手腕を十分に身につけていないかもしれません。

ケースメソッドで経営を教えるということは、理論知識なり、先端研究成果なり、実務経験なりが、学習者の経営実践能力向上のために駆使されている必要があります。それらの配合バランスの問題ではなく、配合物としての授業が、学習者の実践能力を高めるための教育内容とその教え方の両方に結実しているかどうかが重要なポイントとなります。

ケースメソッドで経営を教えている講師たちは、このような条件を満たすべく、日々研鑽を積んでいます。
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授業はどのように進むのですか?
ケースメソッド授業の一般的な進め方は、あるひとつのケースについて、「個人予習」「グループ討議」「クラス討議」の順番に進めるというものです。ディスカッションのサイズを段階的に大きくしながら、より多様な参加者による、より深い議論へと進んでいきます。
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ケースメソッド授業の流れ図2
ケースメソッド授業の流れ図2
ケースメソッド授業は、事前に配布されたケースを授業当日までに、各自が予習することから始まります。ケースメソッドで行われる多くのクラスでは、「発言点(クラス貢献点)」が成績に影響する評価構造が用いられていますので、大勢の参加者で議論を交わすクラス討議の場でしっかりと発言できるように、事前に十分な予習を行っておくことが必要です。

授業当日は、クラス討議に先立って、まず少人数のグループで予備的な討議を行います。これをグループ討議と呼びます。ここでは個人予習で準備してきた各自の考えを、グループメンバーの前で一度口に出しておくことで、自分の考えのポジショニングや偏りのチェックや、クラス討議に向けて「もうひと磨きする」ことなどを行います。グループ討議では学習者のコンセンサスを導く必要はなく、講師もつかないのが一般的です。

グループ討議が終わると、短い休み時間をはさんで、学習者全員がひとつの教室に集まって行うクラス討議(全体討議)に進みます。クラス討議ではディスカッションリーダーとしての講師がつき、講師の討議リードのもとで、全員で討議しながら学びます。クラス討議では、グループ討議の報告が求められ、そこから全体討議が始まることもあれば、いきなり全員で議論を始めることもあります。また、誰かひとりが自分の考えを述べ、そこを出発点にして全体討議が始まることもしばしばです。

授業の終わりには、討議のあとで講師が短いレクチャーを行うこともありますし、時間いっぱい全員でとことん討議して終わることもあります。
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