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ケースで学ぶ

ケースで学ぶとは具体的にはどうすることですか?

「事例研究ケース」で学ぶ場合は、その研究者が事例をもとにして行った研究のプロセスを正しく受けとめて理解すること、あるいは、その研究プロセスを評価して建設的に批判することが、意味深い学習になります。
一方、「討議用ケース」で学ぶということはすなわち、そこに描かれている具体的な実働物を捉えるための枠組みを、学習者が自分で選び、その枠組みを通して出来事を理解し、その場面で求められている次のアクションを適切に選択することです。

教科書や理論書で学ぶ場合は、そこに書かれている記述内容を抽象物のまま理解することが先にきて、しかる後にそれを具体物に適用するのが一般的です。しかし、ケースのような事例教材で学ぼうとする場合には、学習者には具体物から先に提示されるので、それをどのように理解すればよいかを考える必要にまず迫られます。提示された具体物を理解するためには、それを理解するために用いる枠組みを探すことから始めなければなりません。これは「討議用ケース」で学ぶ場合に特にそうなのですが、「事例研究ケース」の場合でも、その研究者が選んだ理解の枠組みが、この研究において本当にふさわしいものであるかどうかを疑う必要ももちろんあるわけです。

良かれと思ってあるひとつの枠組みを選び、それを使って検討を始めたものの「どうもしっくりこない」という場面に、ケースで学んでいるとしばしば遭遇します。やがて、その枠組みで理解するだけでは不十分なことに気づき、新しい枠組みを探したり、自分ならではの新たな枠組みを考えて試用したりして、より深い事例理解のために試行錯誤することになります。ケース学習においては、問題になっている事例に密着した知的試行錯誤が、その学習活動の中心になります。

使う枠組みが所与のものとして決まっており、それが現実の出来事でどのように適用できるかを考える知的作業と、どのような枠組みで捉えたらよいかを先に考える知的作業では、求められる能力が大きく異なります。求められる能力が異なるということは、鍛えられる能力も異なることになります。

「事例研究ケース」で学ぶにせよ、「討議用ケース」で学ぶにせよ、また既存の理論を適用するにせよ、それをひとひねりして解を出すにせよ、現実の出来事に即して考え抜くということは、実務家に求められる実践能力の生命線であると言えます。

ケースで学ぶとどのような力が身につきますか?

ケースの分類については、多くの研究者がそれぞれの独自の分類を試みていますが、本サイトにおけるいちばん大きなくくりのケース分類は、「事例研究ケース」と「討議用ケース」です。また本サイトでは、「事例研究ケース」をさらに「研究ケース」「情報ケース」のふたつに、また「討議用ケース」をさらに「理論適用ケース」「分析ケース」「意思決定ケース」の3つに分けています。

ケース学習に限らず、学習の成果としてどのような力が身につくかということは、教材のタイプに依存するというよりはむしろ、学習活動全般を通してそこに貫かれていた学習目的や、そのために選択された学習方法に左右されます。本サイトで扱うケースにはさまざまなタイプがあると前述した通り、扱っているケースにはそれだけ多様な学習目的をセットできますし、多様な学習方法が選択可能です。

例えば同じ「事例研究ケース」を使った学習を考えてみても、たくさんのケースを読み漁る学習、事例研究を批判する学習、同じ業界についてのケースを読んでその業界についての統合的な理解を得る学習、複数の研究を統合して新しい研究方法を導出する学習、など学習方法は工夫次第で無限にあります。学習方法が無限だということは、そのような学習によって高めることのできる能力も多岐に渡るということです。

その中から、代表的な学習方法を選び、その学習方法で伸ばしやすい力を挙げてみることにします。

「事例研究ケース」を教材として用いる学習の代表は、そこからの知識習得、あるいは研究評価でしょう。このような学習を繰り返すことで、知識習得学習ならば知識増大が、また研究評価学習ならば研究評価能力や研究企画能力といった、研究を進める上での実践能力が高まります。

また、「討議用ケース」を用いて複数の学習者で討議を行うと、結果として実務遂行上の実践能力が高まります。ここで言う実践能力とは、具体的には、分析力、洞察力、情報統合力、計画立案力、概念構成力、戦略構築力、意思決定力などのことで、これは「事例研究ケース」を討議資料として使う場合でも同じです。

ただし、どんな力であれ、そのような力は訓練量に比例して身につく類のものですので、学習訓練の絶対量を十分に確保する必要があることは言うまでもありません。

ケースで学んだ人たちはどのようなキャリアを築いているのですか?

ケースを用いた学習を重ねてきた人たちの多くは、学者や研究者になるというよりはむしろ、第一線で活躍する実務家として活躍することが多いようです。その意味でも、ケースを用いた学習は、専門知識のみならず実践能力も高度に求められる実務のプロフェッショナル教育の手法として、古今東西で重視されてきたものです。

例えば経営や行政のプロフェッショナルたちは、ケースで学ぶ経験をどこかで積んでいることが確かに多いです。このことからも、「実務のプロフェッショナルとなること」と「ケースで学んだ経験」の間には少なからず関係性があると考えてもよさそうです。理論適用や状況分析、そしてそれを踏まえて行う意思決定の訓練量が、ケースで学んだ人たちの実務能力を高めたと考えてよいでしょう。

また「討議用ケース」を用いて数多くの議論を重ねてきた学習者は、目の前にある大きな課題に立ち向かうときに、仲間とともに議論をし尽くすことで革新的な解を得ることに熟達しています。このような協働スキルは、今日の複雑な社会環境下で実務を遂行していくために欠かせないスキルのひとつとなります。

これに加えて、討議型学習で磨かれてきた学習者は、討議を通して他の発言者の意見をよく聞く姿勢や、自分の考えに固執しない柔軟性、他者を尊重する態度、責任ある言動へのこころがけなども十分に身につけており、人間的な成長度合も高いです。こうした人間面の涵養は、多くのメンバーを束ねて実務のリーダーシップをとるために欠かせないものだと言えます。

ケースで学ぶ際には、どのような姿勢で臨むのがよいですか?

どのようなタイプのケースで学ぶにせよ、ケースで学ぶ際には事例に対して能動的に向かっていく姿勢が求められます。ケースで学ぶという学習活動には、講師の講義を聞いたり、本に書いてあることをそのまま理解したりすればよいという受動的側面がほとんどありません。「自分から能動的に向かっていかなければ得られない」という点が、ケース学習の難しいところでもありますが、恵み多きところでもあります。

幼少期に始まった私たちの学習は、単純化して言えば「与えられた問い」に対してその「答え」を考え、それが「正しいかどうかを確認する」ことの繰り返しだったと言っても過言ではありません。成長とともに習得する内容はより高度なものになっていきますが、人間はこのような学習パターンに無意識のうちに縛られていきます。つまり、問いが与えられないと気持ちが悪いし、自分の考え出した答えの正しさを確認できないと満足できない身体になっていきます。

ところが、実務の世界では、誰も問いを与えてくれない状況があります。また、「解くべき問いはこれだ」と主張している人はいるものの、その人が主張している「解くべき問い」は的外れであるかもしれません。ここで仮に「問いはこれでよい」と決まったとしても、その問いに対する答えがひとつでないこともしばしばあります。このような状況下にあるにもかかわらず、「問いが与えられないと、ものごとを前に進めることができない」、また「問いに対する答えは確かにあり、求めればそれを与えてもらえると信じている」ようだと、実務家としては力不足と言わざるを得ません。

実務のプロフェッショナルとは「与えられた問いに対する答えを出す」ことを超えて、「価値ある問いを自分で立て、その答えを積極的に模索して、その答えにしたがって実行し、成果を出すことに責任を持てる人」でなければなりません。そのような能力を身につける訓練の一環として、受動的側面の少ない、能動型学習を繰り返すことはとても有効です。このようにして行われる学習の真髄は、「学ぶべきことを自分で作っていく姿勢」が育まれていくことです。ケースを使った学習に臨む際には、このような学習姿勢を確かに持っておくことが大切です。


ケースとは

「ケース」とはそもそも、実際の出来事に関する記述物です。教科書や理論書などには抽象度の高い概念、理論、フレームワークが記述されるのに対して、ケースには「ある固有の状況下で実際に起こっている具体的な出来事」が事実としてそのまま記述されます。このような事例記述物を「教材」とすることで、学習活動は実践的な方向に向かいます。「ケース」という言葉は今日、実に多様に使われていますが、この言葉の使われ方の源流には、研究成果物としての「ケース」と、ビジネススクールなどで行われる討議型授業のための資料としての「ケース」のふたつに大別されます。

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ケースで学ぶ

「事例研究ケース」で学ぶ場合は、その研究者が事例をもとにして行った研究のプロセスを正しく受けとめて理解すること、あるいは、その研究プロセスを評価して建設的に批判することが、意味深い学習になります。一方、「討議用ケース」で学ぶということはすなわち、そこに描かれている具体的な実働物を捉えるための枠組みを、学習者が自分で選び、その枠組みを通して出来事を理解し、その場面で求められている次のアクションを適切に選択することです。

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ケースで教える

「事例研究ケース」をありのままに教える場面を想定すれば、その研究者が事例をもとにして行った研究のプロセスと考察結果への理解を深めさせることが教育行為になります。また、その応用学習として、その研究プロセスを評価して建設的に批判させることもケースでの教え方の代表例のひとつです。一方、「討議用ケース」で教えるときは、そこに描かれている具体的な実働物を捉えるための枠組みを学習者に自分で選ばせて、どのような理解になったかを意見交換させたり、その場面で求められている次のアクションを考えさせたりすることが教育行為の中心になります。

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ケースを作る

ケースで教える講師(主に大学教員)たちが「そのケースで自分が教える」ために書くことが多いです。大学院などでは、修士論文研究や博士論文研究の成果がもとになって、ケースが生まれてくることも多いようです。近年では、民間の教育機関でも積極的にケースが開発されています。また、企業においても企業内研修用の教材としてケースが開発されています。欧米ではケースライターという職業が確立していますが、日本ではまだそのような職業が確立されていません。

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ケースを入手する

大学院・ビジネススクールを始めとした、実際にケースを作成している機関のサイトや担当部署から入手・購入する方法があります。それら複数の作成機関のケースを数多く集めて紹介している組織もあり、豊かな品揃えを持っていることが魅力です。その他、いくつかのケースをまとめたケースブックという形で書店等にて販売されていることもあります。また、ケース作成者に直接書いてもらう方法もあります。

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ケースメソッド教育

ケースメソッド教育とは、「討議用ケース」を用いて行う討議型授業をつなげてカリキュラムを構成していく教育形態の総称です。私たちにとって馴染み深い講義型の授業を基点して、そこに変化をつけるためにケースを使うというレベルを超えて、ケースをもとにした討議型授業を何度も繰り返し行うケースメソッド教育は、ケースを用いた学習の究極の姿とも言えるかもしれません。その教育目的は言うまでもなく「実践能力」の育成であり、ケースメソッド教育のもとでは講義型の授業はあまり行われません。

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