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ケースを作る

どのような人たちがケースを書いているのですか?

ケースで教える講師(主に大学教員)たちが「そのケースで自分が教える」ために書くことが多いです。大学院などでは、修士論文研究や博士論文研究の成果がもとになって、ケースが生まれてくることも多いようです。近年では、民間の教育機関でも積極的にケースが開発されています。また、企業においても企業内研修用の教材としてケースが開発されています。欧米ではケースライターという職業が確立していますが、日本ではまだそのような職業が確立されていません。

日本のケース開発は、主に大学がその中心的役割を果たしています。「事例研究ケース」は大学で行われる研究活動の直接的な成果物ですし、「討議用ケース」はそれを用いて討議型の授業を行う必要性から、消費地イコール生産地となって生まれてきます。

大学でケースが作成されるときは、産業界からの求めがあって作られることもありますが、多くのケースは大学教員が自分の授業で使うための教材として、ケースを書きます。その際、教員が自分の研究室に在籍する学生を指導しながら作成していくことが多いようです。

社会の変化が早いと、完成したケースの賞味期限はどうしても短くなります。その意味では今日、新しいケースの需要は実際の供給力を上回るレベルにあります。しかし、どのようなケースをどのように作ればよいかというケース作成への見通しは、基本的には大学内にあるものの、大学ではそれを作りきれないという状況にあります。また、民間の教育機関のケース作成意欲も旺盛ですが、彼らが執筆を委託しようとしている書き手たちも、大学関係者が中心になっているのが現状です。このようなわけで、社会全体としてのケース作成能力は、グロスではなかなか上向きにくい構造にあります。

ケースを用いた教育の普及と高度化を望む立場に立ち、かつ、理想論だけを追ってよいならば、ケースの需要よりも供給力がわずかに上回るくらいの方がよいと思われます。このとき、よいケースであると判断されたケースはどんどん授業の場で試され、ケースライター(ケースの作成者)間の競争を通した切磋琢磨があり、ケースの選別や淘汰がある程度は進むことが望ましいと言えます。

そのためには日本にケースの流通市場が整備されることが重要だと考えます。

ケースを書くためにはどのような訓練が必要ですか?

「事例研究ケース」に関しては、ケースを書くための訓練というよりはむしろ、研究論文作成訓練になりますので、日常の研究活動がそのまま生きた訓練になります。一方、「討議用ケース」を書く場合は、「討議の誘発装置」として書くための訓練が必要です。ケースを書き、そのケースを用いて授業を行い、ケースがどのような討議を促進したのか、あるいはしなかったかを知り、ケースにフィードバックすることを繰り返し行うことが、もっとも生きた訓練になります。

「事例研究ケース」を書くためには、よい研究を企画して実行し、それを研究論文の作法に則って文章化していくスキルが求められます。このようなスキルはいわゆる「研究能力」であり、研究を積み重ねていく度に向上していくスキルと言えます。

一方「討議用ケース」を書く際にもっとも重要な視点は、そのケースが実際に使われる授業中に進行していくであろう討議と、その討議を通して学習者たちが学んでいくものを見通して書くということです。この視点を磨くためには、自らもケースで教えることが望ましいのですが、実際にケースで教えている指導者のもとで、ケース作成者自身も授業に参加しながらケースを書く経験を重ねていくことでも、ある程度は代替できます。また、ケースライティングに役立つテキストやセミナーもありますので、これらを活用することもお勧めです。

しかし、ケースで教えることと同様に、ケースライティングも場数を踏むことが重要です。自分の書いたケースが討議授業の場でどのように機能し、それが学習者の学びにどのように供しているかを理解して、ケースライティングを具体的に改善していくことができる環境に身を置くことがもっとも大切です。

厳密には言えないものの、「討議用ケース」を作り、その試運転を自ら行うか、それに立会い、ケースを改善するというサイクルで、5セットくらい(5本のケースを作り、試すということ)の経験を積むと、「討議用ケース」を作る際の勘どころが得られていくと思われます。少なくともこのくらいの経験量は得られるように、ケースを作り続けていきたいものです。

ケースはどのようにして書くのですか?

「事例研究ケース」と「討議用ケース」では、学習活動におけるケースの役割が大きく異なりますので、それぞれ別のプロセスで書かれることになります。「事例研究ケース」の書き方は基本的には事例研究論文の作法にしたがうことになりますが、「討議用ケース」にはほぼ汎用的に活用できるライティングプロセスがあります。それは、「ねらった討議を誘発するための仕掛け」を作り込むプロセスと言えます。

「事例研究ケース」を書くプロセスは、事例研究のプロセスそのものですので、ここでは割愛して、「討議用ケース」(とりわけ「分析ケース」と「意思決定ケース」)に焦点を当てます。

「討議用ケース」を書くプロセスがどうあるべきかを探求するために、このタイプのケースを用いて行う討議型授業がなぜ実践能力を育むのかを考えることにします。そうすることで、まず「討議用ケース」に持たせるべき機能を明らかにします。

「討議用ケース」を用いて行う授業では、「そのケースを用いてなされる討議」を通して学習者が「討議から学べること(すなわち教育目的)」に到達するという過程を経て、学習が行われます。このとき「討議用ケース」は講師がさせたい議論を誘発する必要があります。またそこで誘発された議論から、学習者があることを学べるようになっているという全体設計がなされている必要もあります。

以上のような「討議用ケース」に持たせるべき機能を踏まえて、それを書くプロセスを考えると、(題材の決定は済んだものとして)最初に行うべきことは、「どのような討議を通して何を学ばせるか」を決めることです。それが決まれば、そのような討議を誘発しやすい内容構成を考えて、インタビューや文献調査により必要な情報の収集を行います。

ひと通り書きあがったら、そのケースが本当にねらった働きをしてくれるものになっているかどうか、最後にチェックすることを忘れないようにします。
このチェック作業は、書き上がったケースを小グループで行う勉強会の場などに持ち込んで、実際に討議してもらいながら確認するのがいちばんです。試運転が終わり、合格だと判断されれば、授業で使用可能な状態になったと言えます。

自分が書いたケースを他の人に使ってもらいたいのですが

日本ケースセンターにぜひ、そのケースを登録してください。そのためにはまず、あなたが書いたケースで「何が、どのように学べるのか」を、ケースを書いたあなた自身がもう一度整理し、文章化して、自己評価してみてください。それができたら、日本ケースセンターのケース登録フォームに必要事項を記入して、当センターに登録してください。

「使ってもらう」ということを「授業の教材にしてもらう」と読み換えると、よい教材を探している講師に向けて、「このケースで学ぶと、とてもよい勉強になる」ということを、その講師がこのケースを使って実際に授業をする以前に理解してもらわなければなりません。そのときに大事なことは、「そのケースを売り込む」のではなく、「そのケースを使って学べることを売り込む」ことです。そのためには、ティーチングノートをあわせて準備することが必要です。

また、あなたが書いたケースを使って行った学習活動(授業や勉強会)の状況などをケースとともに情報発信できれば、それはケースを探している人にとって実に有益な情報になります。これまでは、討議型授業での使用に耐えるケースの情報は、講師間の口コミで広がっていきました。
ケースで教えたり、学んだりする人たちはこのような情報を頼りにケースを選びますので、ある意味ではティーチングノート以上に重要だとも言えます。

なお、「事例研究ケース」を登録する際には、研究目的、研究方法、考察結果を整理するとともに、それを討議資料として用いる場合の活用可能性についても添えていただくことで、使ってもらえる確率が高まるでしょう。

ケースを書いてもらいたいときはどうすればよいですか

第三者にケース作成を依頼したい場合は、作成候補者を探し、依頼側のケース作成意向を伝えて、作成してもらうケースをどのようなものにするかのコミュニケーションを十分にとる必要があります。このとき「ケースはある目的で行われる教育に供するための教材である」という考え方を、作成を依頼する側がしっかりと維持していくことが大切です。

ねらった教育を行うための教材として適当なケースが見つからないとき、新たに作成することを考える必要があります。また、作成作業を自分で行うことができない場合は、第三者に作成を委託することになります。

ここでは具体的な教育ニーズをもとに、「討議用ケース」の作成を第三者に依頼する方法を考えます。このときに重要なことは、書いてもらうケースを「どのようなものにするか」について、依頼側から作成側に向けた十分な説明を行うことです。ここでどのような説明が必要になるか、以下に挙げてみます。

ケース作成者の立場から言うと、いちばん欲しい情報は「何を学ばせるためのケースが必要か」ということです。さらに可能であれば「どのような題材(素材としての出来事)をどのように料理すると、そのようなことが学べるケースになる」と依頼側は考えているのかを教えてもらえれば、その案に対して、実現可能性や具体的な作成の見通しについての意見を返すことができます。ケースの目的情報だけをケース作成者にパスして、そこから先はケース作成者に考えてもらうということも、経験豊富なケース作成者ならば可能でしょう。ケースとそれを使った授業のイメージがすぐに紐つくケースライターが「よいケースライター」です。

大筋のことが決まったら、具体的な作成の方法、納期、作成料金、著作権の扱い、固有名詞の扱い等の詳細を打ち合わせ、執筆開始となります。


ケースとは

「ケース」とはそもそも、実際の出来事に関する記述物です。教科書や理論書などには抽象度の高い概念、理論、フレームワークが記述されるのに対して、ケースには「ある固有の状況下で実際に起こっている具体的な出来事」が事実としてそのまま記述されます。このような事例記述物を「教材」とすることで、学習活動は実践的な方向に向かいます。「ケース」という言葉は今日、実に多様に使われていますが、この言葉の使われ方の源流には、研究成果物としての「ケース」と、ビジネススクールなどで行われる討議型授業のための資料としての「ケース」のふたつに大別されます。

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ケースで学ぶ

「事例研究ケース」で学ぶ場合は、その研究者が事例をもとにして行った研究のプロセスを正しく受けとめて理解すること、あるいは、その研究プロセスを評価して建設的に批判することが、意味深い学習になります。一方、「討議用ケース」で学ぶということはすなわち、そこに描かれている具体的な実働物を捉えるための枠組みを、学習者が自分で選び、その枠組みを通して出来事を理解し、その場面で求められている次のアクションを適切に選択することです。

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ケースで教える

「事例研究ケース」をありのままに教える場面を想定すれば、その研究者が事例をもとにして行った研究のプロセスと考察結果への理解を深めさせることが教育行為になります。また、その応用学習として、その研究プロセスを評価して建設的に批判させることもケースでの教え方の代表例のひとつです。一方、「討議用ケース」で教えるときは、そこに描かれている具体的な実働物を捉えるための枠組みを学習者に自分で選ばせて、どのような理解になったかを意見交換させたり、その場面で求められている次のアクションを考えさせたりすることが教育行為の中心になります。

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ケースを作る

ケースで教える講師(主に大学教員)たちが「そのケースで自分が教える」ために書くことが多いです。大学院などでは、修士論文研究や博士論文研究の成果がもとになって、ケースが生まれてくることも多いようです。近年では、民間の教育機関でも積極的にケースが開発されています。また、企業においても企業内研修用の教材としてケースが開発されています。欧米ではケースライターという職業が確立していますが、日本ではまだそのような職業が確立されていません。

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ケースを入手する

大学院・ビジネススクールを始めとした、実際にケースを作成している機関のサイトや担当部署から入手・購入する方法があります。それら複数の作成機関のケースを数多く集めて紹介している組織もあり、豊かな品揃えを持っていることが魅力です。その他、いくつかのケースをまとめたケースブックという形で書店等にて販売されていることもあります。また、ケース作成者に直接書いてもらう方法もあります。

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ケースメソッド教育

ケースメソッド教育とは、「討議用ケース」を用いて行う討議型授業をつなげてカリキュラムを構成していく教育形態の総称です。私たちにとって馴染み深い講義型の授業を基点して、そこに変化をつけるためにケースを使うというレベルを超えて、ケースをもとにした討議型授業を何度も繰り返し行うケースメソッド教育は、ケースを用いた学習の究極の姿とも言えるかもしれません。その教育目的は言うまでもなく「実践能力」の育成であり、ケースメソッド教育のもとでは講義型の授業はあまり行われません。

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