The Case Method

【連載コラム】第1回 人間の器を大きくするケースメソッド教育

 日本ケースセンター所長の竹内伸一です。これから少なくとも月に一度、会員の皆様に向けてコラムをお届けしてまいります。お時間のあるときにお目通しいただければ、嬉しく思います。

人間の器を大きくするケースメソッド教育

 ケースメソッド教授法(Case Method of Instruction)はビジネススクール教育の代名詞でもあり、この教授法による多くの教育実践は、主として経営能力の育成を目指してきた。そのケースメソッドを支えている教育思想の源流には陶冶論がある、という話から今日はじめたい。
「陶冶」(Bildung(独))とは平たく言えば「人間形成」のことであり、教育よりもさらに上位の概念だと言える。人間を器とその中身になぞらえたとき、器よりも中身に着目して人間形成を進めようとするのが実質陶冶(materiale Bildung)、逆に中身よりも器に着目して人間形成を進めようとするのが形式陶冶(formale Bildung)と言うように、陶冶論は歴史上で分岐した。ケースメソッドの教育思想は、後者の形式陶冶論をその端緒としている、と専門家は考えている。

 一義的には経営能力を高める教授法でありつつ、さらに人間の器をも大きくする。私がケースメソッドに期待を寄せ続けている所以はそこにある。教育関係者が授業や研修を計画し、ケースを収集するというプロセスでは、現実問題として「人間の器を大きく」などという話にはなかなか意識が向かいにくいだろう。それでも、ケースを用いて行うディスカッション授業には、そんな教育ポテンシャルが自動的に埋め込まれている。このことはときどき思い出していただきたいし、少しだけ期待もしていただきたい。

 私たち日本ケースセンター(CCJ:Case Center Japan)は、そんなケースメソッド教育を主に教材提供の側面で支えようとしている非営利の事業者である。「教材屋」の使命としては、提供する教材の質、提供プロセスの品質、さらには会員コミュニティに提供する価値など、視野に入れたいことは多々あるが、採算面でこの事業を成立させ続けるためには、相当にリーンなセンターオペレーションとそのマネジメントが求められていることも、また事実である。
 かつて営利企業にも身を置いた私としては、必ずしも十分には行き届かない会員サービスの現実に心を痛める場面もないではないが、わが国にケース提供組織を維持存続させることの意義のほうが大きいと、自分には言い聞かせている。このことについて、会員の皆様にもご理解をいただければ幸甚である。

 今回は初回ということもあり、比較的大きな話を綴ってみたが、この先の連載では、ケースメソッド教育をめぐる大きな話と小さな話を織り交ぜながら、会員とセンターをむすびつけるパイプを築きつつ、後世にも伝承すべきケースメソッドの魅力を少しずつ書き出してみたいと考えている。


Written by 竹内伸一

日本ケースセンター所長

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