The Case Method

【連載コラム】第5回 4冊の教科書、年末に揃う。

 前回のコラムで、水野由香里先生・黒岩健一郎先生の新著『ケースメソッドの教科書』を紹介したばかりだが、その直後にもう一冊の貴重な書籍が上梓された。タイトルは『ケースメソッド・ティーチング』、著者は百海正一先生で、出版社は学文社である。

 私自身は百海先生のことを特段によく存じ上げているわけではないが、これまでに何度か接点があった。ケースメソッド教育研究に従事している人なら誰でも、百海先生の論文や書籍にはどこかで触れているだろうし、かつてCCJセミナーで百海先生とご一緒したという方も少なくないだろう。日本では神奈川大学、中央大学ビジネススクールで教鞭を取られていた。

 百海先生のケースメソッド研究業績を僭越ながら概観してみると、論文では1995年に書かれた「インターナショナル・ティーチャーズ・プログラム ― ケース・スタディー ―」(『経済貿易研究研究所年報』第21巻、神奈川大学経済貿易研究所)とその5年後の2000年に書かれた「経営学における教授法の改善 ― ケース・メソッド教育を中心に ―」(『商経論叢』36巻2号、神奈川大学)の二つが、また書籍では今から13年前の2009年に著された『ケースメソッド学習法』(学文社)がとりわけ重要であろう。百海先生によれば、この度の『ケースメソッド・ティーチング』は『ケースメソッド学習法』の続編の位置づけだと言う。序文にそう書いてあった。

 これらの百海文献を通読すると、ほかのケースメソッド教育研究者にはない百海先生ならではの一貫した視座や着目、そして強調があり、それらは、百海先生がIMDでのMBA学生経験を経て教える側にも回ったという、海外での学修・教授経験から汲み上げた精緻で詳細な知識に支えられたものであると感じる。こうした知識・経験基盤をもとにケースメソッドを論じている研究者は国内にはなかなか見当たらず、国内経験が中心で海外経験に乏しい私にとって、百海先生は羨望の大先輩である。

 今年も残すところ1週間となり、ケースメソッド教育にとっての2022年を振り返ってみると、まず年の半ばの6月にはHBS日本リサーチセンターが主催した「HBSケースメソッド誕生100周年記念講演会」があり、年末までに、ケースメソッド教授法について日本人のために日本語で書かれた教科書2冊の上梓が続いた。これで、ケースメソッドの教科書は、百海(2022)、水野・黒岩(2022)、岡田・竹鼻(2011)、竹内(高木監)(2010)の4冊が揃った年になった。

 多くの人にとって馴染みの薄いケースメソッドにとって、学びはじめるにも教えはじめるにも教科書の役割は重要である。ひとつの国の中に、ケースメソッド教授法に正面から焦点を当てた書籍を4冊以上もつ国は他にもあるだろうが、風合いの異なる4冊の教科書をもつようになったわが国を、私は少し誇らしく思いつつ、来たる2023年に意識を向かわせている。


本コラムで紹介している文献の一覧


百海正一 (1995)「インターナショナル・ティーチャーズ・プログラム ― ケース・スタディー ―」『経済貿易研究研究所年報』第21巻、神奈川大学経済貿易研究所。
百海正一 (2000)「経営学における教授法の改善―ケース・メソッド教育を中心に―」『商経論叢』36巻2号、神奈川大学。
百海正一(2009)『ケースメソッド学習法』学文社。
百海正一(2022)『ケースメソッド・ティーチング』学文社。
水野由香里・黒岩健一郎(2022)『ケースメソッドの教科書 -これさえ読めば授業・研修ができる-』碩学舎。
岡田加奈子・竹鼻ゆかり(2011)『教師のためのケースメソッド教育』少年写真新聞社。
竹内伸一(高木晴夫監修)(2010)『ケースメソッド教授法入門 -理論・技法・演習・ココロ-』慶應義塾大学出版会。

※ 岡田・竹鼻(2011)は現在版元では絶版になっています。


Written by 竹内伸一

日本ケースセンター所長

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