【連載コラム】第6回 2023年を振り返って
「今年に入って、まだ一度も書いていないですよ」とスタッフからメールが来たのは12月の20日のことだった。何を「書いていない」かと言えば他でもない、この「連載コラム」である。罪の意識は早い時期からあったのだが、書くことを後回しにし続けてきたわけで、まったくもって情けない話である。
しかし、このままでは年を越せない。何か書かないと。ようやく重い腰を上げてパソコンに向かうと、日付は12月29日になっていた。
わが国の2023年を振り返ると、コロナ禍の打撃を大きく受けた集合形式による教育研修の低調ぶりも底を打ち、ケースの需要は反転期に入って、販売も上向いた。新規のケース登録では、日本語教育分野の若手教員による新作ケースに秀逸なものが多かった。中にはマンガ化されたものもあり、ケースの新形態が切り開かれたように思う。このところの日本語教育におけるケースメソッド授業実践には勢いを感じる。
また、今年度の海外との関わりとして、アジアパシフィックでは上海の中欧国際工商学院(CEIBS: China Europe International Business School)のケースセンターとの交流が、また、中近東ではエジプト高等教育省(MOHE: Ministry of Higher Education)の官僚研修を受託してケースメソッドで提供するなどの前進があった。加えて、CCJの運営母体であるNUCB Business Schoolが、2024年7月に開催されるAAPBS(Association of Asia Pacific Business Schools)のCase Method Teaching Workshopのホスト校に選ばれた。このように、2006年のCCJ開設当時の“J”は、ケースセンターとしての活動領域を示す“J”であったが、今日では情報発信地を示す“J”に変わりつつある。
そしてもうひとつ、ぜひここに書き残しておきたいことは、愛知県の商業高校におけるケースメソッド教育の力強い胎動についてである。愛知県では教育委員会の強い後押しも得て、県内の商業教育をけん引するリーダー核の商業高校がケースメソッド教育を強力に推進している。NUCB Business SchoolおよびNUCB Undergraduate Schoolは商業高校教員に向けた研修を今年は4回ほど繰り返し、教育に向けられた熱量の高い高校教員にケースメソッド教授法を伝授しつつ、ケース教材作成を指導・支援した。その結果、県立愛知商業高校にはケースメソッド教育が全校的に根付きはじめ、他県からの教育関係者の見学が後を絶たない状況になっている。また、県立岡崎商業高校では同じ日の同じ校時に8クラス同時にケースメソッド授業が行われ、それを約150名の県内商業高校教員、普通科高校教員、および生徒の保護者が一斉に授業見学して啓発されるなど、大きな成果が出ている。
このコラムが掲載されるのは年明けになるだろうが、ケースメソッド教育が国内外に向けて大きく飛躍した2023年を振り返り、去り行く年に関わった多くの方々に感謝をしつつ、新たな年に期待を寄せたいと思っている。